この記事はこんな方におすすめ!
・ドラムの打ち込みにある程度慣れてきた方
・もっとリアルな音作りがしたい方
みなさんはドラムの打ち込み、どうされていますか?
ほとんどの方はドラム用トラックを作成、プラグインを立ち上げMIDIを打ち込んでいると思います。
大抵のドラムプラグインは一つのトラックでスネア、キック、シンバルといった複数の音を打ち込めるようになっています。
「ドラムトラック」として、1トラックにドラム全ての音をまとめている方も多いでしょう。
この方法、複数の音が集約され確かに楽なのですが、同時に「ドラムのパーツ一つ一つの音作りが困難」という弱点も抱えています。
「低音部(キック)と高音部(シンバル類)が混在し、EQが難しい」「PAN振りができない」など…
特に、曲作りに慣れ初心者を脱し、もう一歩進んだ音作りをしたい方が直面しやすい問題かと思われます。
そこで今回紹介するのが、ドラムトラックのパラアウト。
これを実践すれば、音作りのクオリティが一気に上がること間違いなしです。
メリット
・各部位一つ一つの音作りが可能
・それぞれにPANを設定できるため、リアルに近い立体的なサウンドが作れる
部位一つにつき1トラックを割り当てるので、それぞれ単独での音作りが可能です。
例えば、「キックのみに1トラックを割き、EQやコンプをかける」といった具合。詳しくは後述します。
同じくPAN振りも部位単独での設定が可能になります。
「ハイハットはR寄り、クラッシュシンバルはLRそれぞれに一つ配置」といった感じ。
注意点・デメリット
・トラック数が増える分、データ量も増える
・部位それぞれに合わせた音作りを知らないといけない
使用する部位が多くなるほどトラック数は増えるので、その分データ量も増えます。
キック、スネア、ハイハット、これだけで3トラック。さらにシンバルやタムも入れるとドラムだけで10トラック近くになります。
PCの性能が心もとない場合、あまりにトラックを増やしすぎるとダウンする可能性も高まるので注意が必要です。
また、ドラムは部位によって音域、アタック感などが大きく違います。
低音部のキック、高音部のシンバルに全く同じEQをかけるわけにはいきませんよね。
よって、各部位にそれぞれ合った音作りを学ばないといけません。
※今記事はDTM用語が頻出するので、以下の記事もあわせてお読みください。
【基礎】初心者が知っておくべきDTM用語【基本】
目次
【1】パラアウトとは?
正式にはパラレル・アウトプット(Parallel Output)と呼称します。
「一つのトラックで複数の音色を鳴らせるプラグインで、あえて個別で音源を出力する技術」のこと。
「1トラックのみ」の弊害
例えばドラムのプラグインは、トラック一つでスネア、キックなど複数の違った音を出すことが出来るものが殆どです。
「C1の鍵盤にキック、E1の鍵盤にスネアリムショット、C#2の鍵盤にクラッシュシンバルL…」といった配置は、DTMでドラムを打ち込む人にとってお馴染みですよね。

そのまま一つのトラックのみに複数の音色を打ち込んで完結させることはもちろん可能ですし、初心者のうちはそれで十分です。トラックの数も少なくて済みます。
しかしその状態だと、音色ひとつひとつの音作りが非常に困難になってしまいます。
例えばEQをかけるにしても、低音のキックと高音のシンバルが同じトラックにあるため、それぞれの音域に見合った調整が難しくなります。
「キックの低音を出すために高音を削りたいが、シンバルの音域も削ることになる…」その逆も然り。
また、PAN振りにおいても弊害が。
音が一つのトラックに集約されているため、ドラムの部位全ての音色が同じ方向から聴こえることになってしまいます。
スネアも、ハイハットも、シンバルも全部一緒の方向から。
これでは立体感の無い平板なサウンドになってしまいます
パラアウトの強み
そこでパラアウトの出番です。
ドラムの部位一つにつき1トラック、つまりキック・スネア・シンバルなどにそれぞれ単独でトラックを割り当てようという手法です。
そうすれば、EQで各部位がお互い干渉することなく不要な音域を削れたり、コンプでサウンドの強調したい部分を際立たせたりすることが可能になります。
またPANにおいても、それぞれ単独で割り当てたい方向に配置出来るため、実物のドラムレコーディングのような立体的サウンドが再現できます。
この手法はドラムだけでなく同じような特性のプラグイン、パーカッションやストリングス音源にも応用できます。
楽曲のクオリティアップに必須のテクニックです。
【2】実践!パラアウト
ではいよいよドラムのパラアウトを実践していきましょう。
使用するのはLogic Pro付属のドラムプラグイン、「Drum Kit Designer」です。
トラック構成
DAWにドラムのトラックを展開していきますが、今回は以下のスタンダードな構成にします。
・バスドラム
・スネアドラム
・ハイタム
・ミドルタム
・フロアタム
・ハイハット
・クラッシュシンバルL
・クラッシュシンバルR
・ライドシンバル
1つの音色につき1トラックなので、計9トラック展開しましょう。

数が多くなるので、区別するために各トラックに名前をつければ作業しやすくなります。
アイコンも変えれば尚良し!

打ち込み
次にフレーズを打ち込んでいきます。
「バスドラムのトラックにはバスドラムのみ、スネアドラムのトラックにはスネアドラムのみ…」といった風に、1トラック1楽器、贅沢に枠を割いていきます。
トラックを頻繁に移動することになるため、慣れるまでは大変かもしれません。

これにて準備完了。
ただ何の調整もしていないので、このままだと1トラックのみに打ち込んだ状態と同じです。
続いてパラアウトの本丸、「個別での音作り」に進みます。
今回は「EQ」「コンプレッサー」「PAN」の三つを調整します。
音作り:EQ
それぞれの音域に合ったEQをかけていきましょう。
キックなら中~高音域をカットして低音部を強調、逆にシンバルなら低~中音域をカット、スネアは低音域をカット…といった感じに不要な部分を削っていくとベストです。

音作り:コンプレッサー
続いてコンプ掛け。
こちらも同様、各部位のキャラクターに合った設定をしていきます。
キックやスネアはアタック強め、反対に金物系はリリースを長めに取る…といった感じ。

特に地味で違いが分かりにくい作業ですが、重ねていくことでサウンドのまとまりが結構変わります。
音作り:PAN振り
最後はPAN振り。
楽器の聴こえてくる方向を設定するので、一番違いが分かりやすい調整でしょう。
キックは真ん中、スネアはやや右寄り、逆にハイハットは左寄り、といった風に、既存の楽曲を参考にしていくとやりやすいかと。

その他
今回は割愛しますが、他にも部位ごとにリバーブをかけて奥行きを出したり、エンベロープを設定してアタック/リリース感を調整するなど、方法は様々。
時間はかかりますが、その分サウンドひとつひとつに磨きがかかるので結果クオリティは上がります。
【3】聴き比べ
それでは1トラックのみに打ち込んだ音源と、パラアウトした音源を聴き比べていきましょう。
※ヘッドホン推奨
パラアウトなし
まずはパラアウト無しの音源。
全て同じトラックに集約されているためEQ・コンプレッサー共にざっくりとしか掛けられず、刺々しく粗い聴感。
さらにPANも全て同じ方向(真ん中)のため、立体感に欠けます。
パラアウトあり
続いてパラアウトあり。
個別にEQとコンプレッサーが掛けられるため、余分を取り去ったタイトな音作りに。
同じくPANもそれぞれの音ごとに設定出来るため、リアルに近い立体的なサウンドが構築できます。
特に右から左へ流れるタム回しの部分がわかりやすいかと。
ミキシングの際は当然他の楽器の音も重なるので、パラアウトあり音源のように下ごしらえすると馴染みやすいです。
【4】小技・Busトラック生成
ドラムをパラアウトすると必然的にトラック数は増えます。
さらに他の楽器も追加していくとトラック間の移動も大変になってくるので、小技をご紹介。
Bus(バス)トラックを生成しましょう。
まずはドラムのトラックを全て選択状態にします。
Shiftボタンを押しながらトラックをクリックしていってください。

その状態で右クリック、「Track Stackを作成」→「サミングスタック」を選択。

これでドラムのトラックをひとまとめにすることができます。

開閉機能で画面をスッキリさせることができますし、ミュート、ソロもまとめてかけることができるので非常に便利です。
【5】最後に

以上、ドラムのパラアウトについて解説させていただきました。
メリット
・各部位一つ一つの音作りが可能
・それぞれにPANを設定できるため、リアルに近い立体的なサウンドが作れる
注意点・デメリット
・トラック数が増える分、データ量も増える
・部位それぞれに合わせた音作りを知らないといけない
パラアウトへの挑戦は単純に楽曲のクオリティアップのみならず、音色ひとつを注意深く聴く良い機会になります。
スキルアップ、特にミキシングにおいては必須の技術と言えるでしょう。
初心者卒業への大きな一歩につながれば幸いです。